EP26「感情の罠」-8/22 PM07:25 東京湾上空-早百合「は~い、今日のテストはここまで!」 通信から花山さんの声が聞こえてきた。私は今フィーニクスと名付けたこの子の中で、その声を聞いていた。 輝咲「了解です!」 私はフィーニクスの綺麗な6枚の羽を広げ、ARS本部へと向った。夕陽が反射してきらきら光る海面を見ていると、 暁君から通信が入った。 暁「お疲れ。だいぶフィーニクスの操縦にも慣れたんじゃないか?」 ペイント弾が入ったライフルを持ったエイオスが、フィーニクスと平翔した。私達は新しい戦力であるこのフィーニクスと、 ヴォルケーノを改修したブリザードのテストをこの数日行っていた。 輝咲「うん、だいぶこの子の特徴が分かってきた気がするよ。」 陽子「私ももっと頑張らないと、輝咲ちゃんに追い越されちゃうな~。」 その名の通り、氷の様に青いブリザードから青葉さんの声が聞こえた。 早百合「でも2人とも回避は合格点よ! あのエイオスの機動力からペイント弾掠めるだけに済ませてるなんて、やっぱり才能ってやつね。」 茜「単純に暁が可愛い子相手にドジっただけじゃないの~。」 淳「まぁまぁ、鳳覇君は近接戦闘寄りだから、仕方ないさ。」 暁「そんな事言うなら俺にもディスペリオンのドラグーンみたいに遠近一体の武器作ってくださいよ~。」 茜「どうせアンタには使いこなせないでしょ。それに可変武器はコストもかかるし、慎重に扱わないといけないのよ!」 普段夜城さんはあの武器を軽々と使っているけど、本当はすごく難しいらしい。 暁「はいはい、わーったよ・・・。もうちっと背中のこれで辛抱します。」 茜「うんうん、大変よろしいお返事で。」 やっぱり、家族っていいなぁ。私にはそう思える存在が近くに居ることが、微笑ましくて辛かった。 EP26「感情の罠」 -8/22 PM07:48 ARS本部 機神・疑似機神ハンガー- 暁「エイオス固定完了っと。」 ハンガーのユニットにエイオスを固定し、俺はコクピットを開けた。 暁「そうだ、この手紙・・・。」 俺はふと、2日前にフィーニクスの素体が現れたときに、エイオスのコクピットで見つけた手紙の存在を思い出し、ARSの制服の ポケットに手を突っ込んだ。 輝咲「どうしたの暁君?」 フィーニクスから降りてきた輝咲が、不思議そうに手紙を覗き込んだ。 暁「この前エイオスの中で見つけたんだけど、あのあとフィーニクスの一件で忙しくて読むの忘れてたんだ。」 輝咲「エイオスの中にあったって事は、未来の暁君からの手紙かな・・・?」 暁「だと思う、書き方もそっくりだしな。」 2つに折ってあったそれを広げると、予想通りゼオンからの手紙らしかった。 書かれていた事は2つ。エイオスの増設装備についてとその中に置いてある機神についての事だった。とりあえずの事は分かったが、書かれている事の 過程というか、原理というか、理論というかが分からなかったため、佐久間の元へと持っていくことにした。 -8/22 PM07:55 ARS本部 メカニックルーム- 暁「・・・つまり、エイオスの両肩にはあるはずの無い空間を生み出す装置がついていて、その中に未来の俺がリネクサスから奪った武器やら未完成の機神 やらを詰め込んだ・・・ってこと?」 茜「ま、頭の固いあんたにはこの原理が分からないのも無理ないわ。」 ノート1ページ分の中に、そんなあるはずの無い空間を生み出す装置の構築式が書けて、しかもその意味を理解できるのが無理という気がするが、 とりあえずメカニックの佐久間と御袋は理解できたようだ。 淳「でも驚いたね、製造されたばかりの機神は感情があって、しかも生まれてから成長するまでの時間が短いだけで、過程は人間と全く同じだとは・・・。 神奈川に保管していたアビューズが、最初神崎君の言う事を聞かなかったのも無理はない。」 早百合「で、フィーニクスに関しては赤ちゃんで言う所の身の回りの物を口に含む行為で、アルファードから全てを学び、そして一体化することでその存在を より強大な物にさせた・・・って所。」 暁「なんつー危ない赤ん坊を詰め込んだんだよ未来の俺は・・・。」 淳「でもそれだけじゃないらしい。」 輝咲「まさか・・・他にも赤ちゃん機神がいっぱい入っているんですか・・・?」 不気味な事を想像しているのか、輝咲の声が少し震えていた。 茜「一先ずはその考えはゴミ箱に捨てちゃっていいわよ。 たぶん入っているのは他に三種類の武器が入っているわね。」 淳「良かったなぁ、待望の飛び道具かもしれないぞ。」 暁「だとすんごく嬉しいんですけどね・・・。所で・・・」 俺は話を大体理解して、疑問をぶつけた。 暁「なんでエイオスの装備なのに、今まで俺はこの機能を知ることはなかったんだ?」 茜「はぁ・・・あんたもここまで馬鹿になったのね。」 淳「簡単なことさ、僕があげたマニュアル無しで、アルファードの突撃重装とリベリオンを使うことはできたかい?」 確かに、重装備に身を包んだアルファードに乗っても周囲の武器の情報などを知ることは無かった。リベリオンに関してはテスト機動で何度もしくじったりもした。 話はかなり前になるが、アルファードで2回目の戦闘をした時のライフルの情報も佐久間が教えてくれたものだった。 茜「つまりこの"ディメンジョン・ガジェッター"って言うらしい虚無空間・・・というより次元武器庫は後付で装備されたものなの。 だから知らなくて当然といった感じね。」 向こうの技術からしたら大したことは無いのかもしれないが、普通の凡人的発想しかできない俺にとっては、本当に未来の自分なのか疑わしいほどであった。 間違いなく今その技術を確立させたなら、億万長者だけでなく、エジソンすら惨敗宣言をするほどの天才として存在していたことだろう。 暁「ふ~ん、ディメンジョン・ガジェッターねぇ・・・。」 俺はここの窓から見えるハンガーのエイオスを見た。その下の方、大きなトレーラーがこれまた大きなコンテナを何個も積んでハンガー内を走行しているのが見えた。 暁「あれは?」 淳「おっ、ようやく出来たみたいだな!茜さん、一仕事ご一緒にお願いしますよ!」 茜「えぇ、もちろん!」 佐久間と御袋は俺の質問に答えることなくメカニック室を出て行った。 早百合「あれはここの疑似機神を機神にするためのパーツと、各機の強化パーツらしいよ?」 暁「疑似機神を機神に!?」 輝咲「もしかして、佐久間さんがアルヴィスネイトの力を使って・・・?」 早百合「そうみたい。フィーニクスとブリザードの調整もあるっていうのに、よくやるよねあの人。」 ハンガー内ではすでにゲッシュ・フュアーとアーフクラルングとルージュの解体作業が始まっていた。 暁「ん・・・?」 輝咲「どうしたの?」 俺が感じた違和感に輝咲が俺の顔を覗き込んだ。 暁「分からない・・・でも、何か嫌な感じがする・・・。」 今までに味わったことの無い感じだ。まるで赤い真紅の目で、心の中を監視されているような―― その気味の悪さをかき消すのは警報の音だった。 -8/22 PM08:30 ポセイドン ハンガー- 警報から30分、俺たちは召集され機影の出現予想地点まで向うためにポセイドンに乗って出航していた。 雪乃「今回は大気圏外から降下してくる3機の機影と接触が目的よ。 降下予想地点は海上だから、飛行できない疑似機神と、まだ正体不明のフィーニクスは本部に待機。 代わりに高田君とセイヴァーを搭乗させているわ。到着予想時間は後数分、各員は自機に乗って待機するように。」 陽子「宇宙からってことは・・・まさか宇宙人とか?」 静流「そんな馬鹿な・・・と昔なら言えたかもしれんが、今は冗談とは言えないな。」 暁「・・・。」 レドナ「どうした暁?さっきから口数少ないぞ。」 暁「あ、あぁ・・・上手く言葉にできないけど、さっきから心の中を見られている気がしてならないんだ。」 陽子「ほ、本当に宇宙人なのかな・・・?」 さっきは冗談の様に言っていた青葉の声が震え始めた。 真「まさに未知との遭遇ってヤツだな、こりゃ生け捕りにして鑑識に持ってくべきか?」 暁「この状況でのその陽気さは、お前の正体も宇宙人なんじゃないか?」 真「そりゃ相手から見たら俺らも宇宙人なわけだしな、否定はできねーかこりゃ。」 ニヤニヤしながら真が言う。 まったくお前は――と言おうとした瞬間、大きな衝撃がポセイドンを襲った。 静流「先手を打ってきたか・・・。」 雪乃「ポセイドンを海面に上げるわ、各機発進準備を!」 頭上のハッチが開き、真夏の薄明るい夜空が覗き込む。 暁「先に行って牽制する!」 エイオスを夜空に打ち上げ、白銀の翼を羽ばたかせた。同時に背中から2本の太刀を引き抜き、目を凝らした。 突然するどく赤い閃光が4本、頭上からエイオス目掛けて降りてきた。 暁「上か!?」 ガルド「うぉらぁぁっ!!」 巨大な灰色の機体が、ゲッシュ・フュアーよりも馬鹿でがい剛腕を振りかざして殴りかかってきた。 暁「シールド展開!」 エイオスの両腕から緑色の波がシールドを形成し、そのパンチを受け止めた。だがその衝撃は強く、コクピット内の俺は思いっきり上下に揺らされた。 反撃を入れようと右手の太刀で灰色の装甲を斬り付けた。しかし、その装甲はとても強固なものらしくエイオスの太刀が弾き返されるだけだった。 真「暁、離れてろっ!」 金色のセイヴァーが持つサンクチュアリ・ブラスターの銃口から青い閃光が放たれ、灰色の機体目がけて進撃する。 ガルド「おっと、さすがレインの言ったとおりだな。」 潔く灰色の機体はエイオスから離れ、回避行動に入った。まるで真が援護射撃をするのを知っていたかのようにスムーズな動きだった。 真「ちっ、外したか。」 フィリア「バレバレだよっ!」 振り向いてみると、セイヴァーに高速で接近する機影があった。その機影から4本の細い手が伸び、さらに細いビーム上の剣がセイヴァーに襲い掛かる。 暁「真!」 陽子「こっちは任せて!」 青いブリザードがセイヴァーの横で、サンクチュアリ・ブレードを構える。 レドナ「ノヴァのコントロールは俺がする!」 ディスペリオンが腰のノヴァ・コンバーターを広げた。 静流「気をつけろ、まだ一機どこかにいるはずだ!」 レイン「さすが鋭いな・・・だが!」 アビューズに薄緑色の機体が襲い掛かる。背中のユニットについている真紅の目からどす黒いビームが放たれ、アビューズを直撃する。 その機体に付いている赤い目に俺は見覚えがあった。 レイン「そう、お前と私は同じような存在だ、お前の心の中ぐらい見えている。」 暁「っ!?」 言葉に出さずとも、相手は俺の心の声に答えた。それに俺と同じ存在というのはどういう事だ。 レイン「ふっ、私はレイン・フルブレイム・・・お前とは違う、オリジナルのX-ドライヴァーだ。」 暁「オリジナルの・・・X-ドライヴァーだと!?」 ガルド「ほらよっ、余所見してる暇ねぇぞ!」 灰色の巨体が繰り出すパンチがエイオスを直撃し、海面に叩きつけられた。 暁「ぐっ!!」 レドナ「おま――」 レイン「それ以上言わなくていい夜城。私達の目的はエルゼ様の命令を忠実に実行するだけだ。」 レドナが言うのを遮り、レインと名乗った男が答えた。エルゼ絡みということは、こいつらもリネクサスに所属しているということか。 レイン「あぁ、お前たちの想像通り、私達もリネクサスの一員だ。」 きっと俺以外の皆も同じことを考えたらしい。 フィリア「も~、レインしか心読めないんだから、勝手に話し進めないでよ~。」 静流「厄介だな、あの赤眼から潰すぞ!」 ガルド「させねぇよ!」 アビューズに灰色の機体が接近する。 陽子「神崎君!」 ブリザードがその間に入り、ブレードで灰色の機体を止めた。 ガルド「ほぉ、俺のグラネスカットの突進を止めるとは。」 真「俺たちの力舐めんなよ!!」 セイヴァーがサンクチュアリ・ブラスターの砲身をグラネスカットに向ける。 フィリア「そんなに怒んなくても、フィリアが相手したげるよっ!」 サンクチュアリ・ブラスターを放ったと同時に水色の機体がセイヴァーに接近する。 レドナ「真、借りるぞ!」 ディスペリオンのノヴァ・コンバーターが光り、サンクチュアリ・ブラスターのエネルギーをコントロールして、 フィリアの機体へとその向きを変更させた。 フィリア「も~、避けるの面倒だよ~! レイン、さっさと"アルゴスの眼"で見ちゃってよ!」 レイン「レイフェジーズの機動力ならどうと言うことはないだろう、あまり眼を頼るな。」 レイフェジーズと呼ばれた機体はノヴァをひらりとかわした。 暁「あの赤眼さえ潰せばこっちの勝ちか・・・なら、こいつを使わせてもらうぜ!!」 エイオスの両肩が眩い光を放ち、空間を捻じ曲げた。その空間に手を突っ込み、長い棒状の物を引っ張り出す。 どうやら巨大な槍のようだが、口径が付いていることから砲撃装備の様でもあった。 ガルド「あれはアーバレスト・バスターランス!?」 フィリア「ちょっとフィリア達の世界の装備が何でアイツが持ってるのよ!!」 レイン「ゼオンの仕業か・・・、厄介な事をしてくれたなっ!!」 何だか分からないが、このアーバレスト・バスターランスと呼ばれる装備はかなりの武器らしい。装備することで、 使い方が不思議と頭の中に流れ込んできた。 暁「いくぜっ!!」 エイオスよりも巨大な砲身を構え、赤眼に向って砲口を向ける。ノヴァを連想させるオレンジ色の膨大な量のビームが赤眼の機体を襲う。 ガルド「レイン、下がってろ!」 灰色の巨体がバリアを展開し、ビームの波を掻き分ける。その間にも俺は敵機との距離をつめ、近接攻撃を仕掛けた。ランスでバリアを一突きすると、 まるで卵の殻のようにそれに罅が入った。 フィリア「離れなさいよ!」 レイフェジーズがエイオスの隣に接近する。かわそうにもこの距離で攻撃を止めたら、確実に目の前のグラネスカットの攻撃が来るだろう。 静流「鳳覇、刀を借りるぞ!」 アビューズがエイオスの後へ回り、背中の太刀を引き抜いてレイフェジーズと激突した。レイフェジーズの細い腕は、そのまま刃になっているらしく、 アビューズの太刀との鍔迫り合いに火花が散っていた。 真「レドナ、コントロール任せるぜぇっ!!」 レドナ「あぁ!!」 赤眼とグラネスカットの後に、サンクチュアリ・ブラスターの光が見えた。 レイン「仕方ない・・・行くぞ、スィージメント!ブラッディ・モード!!」 グラネスカットの後に居る赤眼の機体スィージメントが赤く光り輝いた。そして、瞬時にその場から居なくなる。 レイン「もらった!!」 暁「真!!」 一瞬見えた光景、赤いスィージメントがセイヴァーに掴みかかろうとしていた。 レドナ「退いてろ!」 間一髪セイヴァーを押し出して、ディスペリオンがスィージメントの餌食となる。両腕をつかまれたかと思うと、 次の瞬間には背中の目からビームが放たれ、ディスペリオンの装甲をボロボロにした。 レドナ「ぐあぁぁぁっ!!」 真「レドナ!」 陽子「夜城君!!」 ディスペリオンが海面に叩きつけられる。 暁「んなろぉっ!!」 バスターランスの砲撃を止め、バリアが無くなったグラネスカットに蹴りを入れて、エイオスを飛翔させた。 暁「行くぜ!ブラッディ・モード!」 赤い涙がポツリと頬を流れ、エイオスを真紅に染め上げた。周囲の動きが鈍くなる中、等速で動き回る機影が一機確認できた。 レイン「ほぉ・・・お前がエイオスでブラッディ・モードを使うのは初めてか。」 暁「心読んだだけで、勝った気になるなよ!」 ランスを構え、スィージメントに接近する。 レイン「それにお前のブラッディ・モードには時間制限すらあるようだな、所詮は擬似的存在・・・私には勝てない!」 スィージメントの赤い眼からビームが放たれる。超高速でその攻撃をかわし、スィージメントとの距離を詰める。 暁「はぁっ!!」 ランスを思いっきりスィージメント目掛けて突き上げた。だが相手はランスの矛先に手を沿え、その軌道をしなやかに変えた。 レイン「喰らえ、全段照射!!」 スィージメント全身の赤い眼から放たれるビームがエイオスを襲う。 暁「間に合え!!」 一旦距離を置き、両腕のシールドを展開する。最初の数発は防げたものの、開幕の一撃でシールドの強度が落ちたらしく、残りの攻撃は シールドを突き抜けてエイオスの装甲を抉っていった。 暁「ぐっ!!」 衝撃でアーバレスト・バスターランスが手から離れていく。 レイン「この距離、もらった!!」 さらにスィージメントが接近してくる。抵抗する武器も、シールドもない今、エイオスは丸裸と言っても過言ではなかった。スィージメントの眼が 赤く光り、更なるビームの雨がエイオスを痛めつけていく。右側の羽が保持できず、重力のなすがまま落下していく。最後の手段、エイオシオン・ノヴァ さえも封印された。ダメージの受けすぎによりエイオスは真紅から、元の色へと戻っていく。 暁「このままじゃ・・・!!」 レイン「これで終わりにする!」 痛みに耐えながらも目を凝らせば、真正面で血の様に赤く、美しくかつ残酷な光が膨張していく。 エイオスとスィージメントの間に、蒼い光を瞬かせながら現れる機影があった。 静流「鳳覇、使え!」 ワープしてきたアビューズが太刀を投げ捨てた。それをキャッチするが、目の前でアビューズの四肢が真紅の閃光に貫かれた。 静流「ぐっ!!」 暁「神崎さん!!」 煙を上げながら海面へと向っていくアビューズ。その向こう側から幾つ物赤い眼がエイオスを見つめている。 レイン「くっ、やってくれる・・・!!」 暁「てめぇぇぇっ!!!」 最後の最後、一瞬の隙を突いて、俺は両手の太刀をスィージメントの頭部に突き刺した。スィージメントが元の色に戻っていく。 レイン「何だと・・・!!」 陽子「鳳覇君、後ろ!!」 ガルド「うぉらぁぁぁっ!!」 振り返ると、グラネスカットの巨体がすぐそこまで来ていた。だが、今の俺にとってはブラッディ・モードでなくとも、カウンターをするには十分すぎる距離だった。 暁「はぁぁぁっ!!」 ディメンジョンガジェッターを出現させ、オレンジ色をした大剣を取り出し、振り向きざまに切り上げた。空間が切れ衝撃波が、迫ってくるグラネスカットを直撃する。 ガルド「な、何いぃぃ!?」 巨体がまるで小石のように吹き飛んだ。 フィリア「トワイライトブレードまで持ってるなんて・・・!」 真「女の子の不意打ちすんのは、男らしくねぇが!!」 フィリア「しまった!!」 セイヴァーがレイフェジーズにサンクチュアリ・ブラスターを突きつける。そのトリガーを引くと同時に、レイフェジーズの腕がブラスターを真っ二つにした。 ブラスターは大爆発を起こし、レイフェジーズの腕はひしゃげ、セイヴァーの両腕が吹き飛んだ。 真「ちっ!!」 フィリア「きゃぁぁっ!!」 暁「真!!」 雪乃「鳳覇君!青山さん!すぐに各機を回収してポセイドンに戻って!!」 状況を確認する暇もなく、有坂からの通信が入った。 ナーザ「ヘカントケイルの支援砲撃を開始する、各機は撤退しろ。」 レイン「すまない・・・。撤退するぞ、ガルド、フィリア!」 向こう側もボロボロの機体で撤退を開始した。こちらも武器と他の機体を回収して海中へと潜った。 途端、海面で大爆発が起こった。 陽子「な、何・・・!?」 雪乃「大気圏外からの熱源が感知されたわ、宇宙のリネクサスからの支援攻撃でしょうね。」 暁「奴等こんな射程距離の武器を・・・ぐっ!!!」 突然痛みが俺を襲う。ブラッディ・モードの代償、フィードバック現象が俺を襲った。意識が朦朧とし、俺は回収したセイヴァーを抱えながらエイオスの 中で気を失った。 -8/22 PM10:20 ARS本部 医務室- 暁「うっ・・・。」 だんだんと意識が戻り、見慣れた真っ白な医務室の天壌と、俺を覗き込む輝咲の顔が確認できた。 輝咲「暁君、大丈夫・・・!?」 暁「あ、あぁ・・・なんとか。」 俺はゆっくりと体を起こし、まだ頭痛が残る頭をポカポカ叩いた。周囲を見てみると、医務室の日向が居なかった。 暁「あれ、先生は居ないのか?」 輝咲「今は夜城君と神崎さんの手当てしてるよ、2人ともドライヴァーだけど、無理しすぎてたから・・・。」 ボロボロになっていたディスペリオンとアビューズの姿を思い出した。 輝咲「でも・・・皆無事でよかった。」 暁「・・・だな。」 輝咲「やっぱり、まだ痛む?」 俺の返事が元気無かった為か、また一段と輝咲が悲しそうな顔で俺を覗き込んだ。 暁「敵にもX-ドライヴァーがいた。それに向こうはこっちの心を読める・・・。 今回はたまたま生き延びたけど、次は分からない。」 輝咲「暁君・・・。」 暁「・・・って、今までの俺なら言うかもな。」 今の俺なら、ここで考えを終えていただろう。だが、俺たちが打倒エルゼを誓ったあの日の事を忘れてはいない。 暁「大丈夫、未来の平和背負ってる奴が、こんなことでめげてらんねぇしな!」 輝咲「やっぱり、暁君は凄いよ。私も見習わなくちゃ。」 輝咲がニコっと笑った。 輝咲「あ、それと暁君に伝えることがあるんだけど、大丈夫かな?」 暁「ん?」 珍しく輝咲の方から積極的に話を始めた。表情は真剣そのものといった感じだ。 輝咲「さっきエイオスから出てきた装備を見たんだけど、あれは未来の世界でリネクサスが使用していた強力な兵器なの。 量産できる代物でもなくて、リネクサスの頂点に近い存在しか扱うことの許されなかったものなんだ。」 暁「あの"アーバレスト・バスターランス"と"トワイライト・ブレード"って奴か?」 輝咲は真剣な表情で頷いた。 輝咲「他にも何種類か存在していたんだけど、未来の世界で私達が壊して、後探していた残りがあの2つだったんだよ。」 暁「そんなに凄い武器なのか、アレ。」 輝咲「バスターランスは中破しちゃってたけど、もう自己修復で回復しつつあるから、すぐに使えると思う。」 確かにさっきの戦闘で無茶な使い方をしたり、スィージメントの攻撃を喰らったりで原型は留めてなかった気がする。 そんなことを思い返していると、医務室の自動ドアが開いた。 剛士郎「いやいや、二人きりの時間を邪魔してすまない。」 さっと手を挙げて入ってくると、普段日向が座っている椅子に腰を下ろした。 剛士郎「私には人の心を見通す能力は持っていないが、人の心情を理解し、推測する頭は持っている。 知りたくないかい?オリジナルのX-ドライヴァーのことを。」 暁「司令は・・・知ってるんですか?」 吉良は黙って頷いた。 剛士郎「レイン・フルブレイム。彼は幾多の実験を受け、初めて成功した全ての元となるX-ドライヴァーだ。 彼の存在があってこそ、今の鳳覇君がX-ドライヴァーであれるといって過言ではない。」 暁「じゃあ、何で俺がX-ドライヴァーに?」 剛士郎「・・・隠す必要はないだろう、彼とスィージメントという組み合わせがエルゼにとって、リネクサスにとって不都合だったのだよ。 エルゼは今から近い時代にレインを殺し、代わりである鳳覇君の覚醒を待っていた。」 明らかに同士討ちは悪役のやりそうなことであるが、レインほどの力を持つ存在を何故消したのだろう。 剛士郎「完璧すぎたのだよ、レインという存在は。 単刀直入に言おう、彼はエルゼの深層心理を読み、リネクサスに敵対しようとしていたのだ。」 暁「!!」 言葉の意味は理解できた。だがリネクサス側の人間が敵対意識を表すほどのエルゼの心理とは何なのだろう。 輝咲「リネクサスは・・・いや、エルゼは一体何を考えていたんですか?」 剛士郎「残念ながらそのエルゼの真理は分からない。」 暁「なら、アイツを説得すれば、リネクサス側のやつらは・・・!」 剛士郎「可能性は0ではない。だが・・・今はそれどころでないのも確かだ。」 医務室のパソコン端末のボタンを押すと、画面には巨大な兵器の姿が映った。 輝咲「これは・・・!」 暁「ヘカントケイル!?」 画面に映った赤茶色の巨体は、まさにナーザの乗るヘカントケイルに間違いなかった。だが、その姿は大きく変貌している。 周囲にはステンドグラスの羽のような物が付いている。 暁「さっきの撤退したときの攻撃はこいつが・・・!」 剛士郎「間違いないだろう。回りに虹の翼構造が見られることから彼らは宇宙からグラヴィデジョン・プレッシャーを放つつもりらしい。」 暁「虹の翼構造・・・?このステンドグラスみたいな?」 輝咲「未来の世界では、回りの光を集めて、その量を150%まで増大させることができる光発電で使われている物なんだよ。」 初見で綺麗だなと思ってしまったそれは、未来ではそれまで珍しいものでもないようだ。 剛士郎「それにアルゴスの眼をつけているという事は、その力は従来のものとは桁違いだろう。」 暁「それでそのグラヴィデジョン・プレッシャーのエネルギーを集めてる・・・と。」 剛士郎「軽く思っているかもしれないが、あの装備は地球の半分以上の"次元を捻じ曲げて押しつぶす"最凶の兵器だ。」 次元を捻じ曲げて押しつぶす、という表現はいまいちピンと来なかったが、宇宙からARSを狙撃するなどという規模の小さい話しではないらしい。 いや、ARSを狙撃するというだけでも十分規模の大きいことには間違いないが。 -8/22 同刻 宇宙- ナーザ「エネルギー充填率50%・・・あと半日か。」 私は巨大な装備に身を包まれたヘカントケイルの中で、明滅するモニターを眺めていた。 エルゼ「窮屈な所に丸一日閉じ込めてしまって、すまない。」 ナーザ「私は構いません。ですが、もうすでにARSはこちらの目的に気付いているでしょう。 すぐにエインシードとエインヘイトの防衛網を濃くするべきかと。」 エルゼ「あぁ、レイン・フルブレイム達の超神機もすぐに修復させてそちらに向わせるさ。 もうすこしの辛抱だ、私達の目的のためにも、頼んだぞ。」 そういうと、エルゼは通信を切った。私はコクピットの椅子に深く腰をかけなおした。 - エルゼ「おっと、言い間違えてしまったな。"私達"ではなく"私"の目的のため、だったな。」 すでに通信を切っているモニターに向って呟いた。 エルゼ「消えてもらうぞ、争いの無い永久の平和のためにな。」 EP26 END ジャンル別一覧
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